ターゲット魚種が何であれ、ルアーフィッシングにおいて楽しく、且つ悩みのタネになるのはルアーカラーの選択ではないだろうか。同じ形状、同じ重さのルアーでも多様なカラー展開があって、何を基準にして選べばよいか分からなくなる。この悩ましきルアーの色について、自分なりに調べた事、考えた事を今回はまとめてみる。
目次
よくある一般論
すでに釣り経験のある人に聞いたり、webでググッたりすると、特定のシチュエーションにおいて特に有効なルアーカラーの選択法が幾つか出てくる。思いつくままに挙げてみると、選択基準として代表的なのはこんな所だろうか。
- 水質:澄み潮にはクリア系、濁りにはチャート系。
- 魚の好み:チヌは黄色、ヒラメは赤・オレンジ、タチウオはグロー
- 時間帯:朝夕のマヅメ時は赤金、日中はホロ。
これらは多分に、釣果に基づく経験則を根拠にしている。多くの人にとって釣りは娯楽である以上、理屈がどうあれ釣れるならそれで良い。過去の経験則に頼るというのは最も手軽な方法に違いない。
反面、釣りに対して少しでも真摯に取り組んでいて、自力で釣果向上に努めたいと思うなら、それなりの根拠や理論が欲しくなるというのも人情。上記のようなカラー選択には果たして妥当な根拠はあるのだろうか?
学者サンの言い分
少し古い内容だが、鹿児島大学水産学部の教授が、シーバス(スズキ)の捕食と色の関係について日本水産学会誌に発表した論文がある。PDF形式で公開されており、内容も簡潔で読みやすい。
異なる背景色におけるスズキのルアー色の選択https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/67/3/67_3_449/_article/-char/ja/
この実験は、水槽に入れたシーバスに対し、背景を白・赤・緑・青と変えた場合、ルアーの色によりバイト(食いつき)の度合いが変わるかを検証するというもの。それぞれの背景色において、使用するルアーの色は透明・白・赤・緑・青である。
結論部分を抜粋すると、実験結果は以下の通り。
- 背景色を度外視してルアーの色のみで考えると、バイトが多いのは白・透明・緑の順。
- 緑背景の場合、ルアーカラーの違いによるバイト率の大差は無かった。
- 白背景では緑のルアー、赤背景では透明のルアー、青背景では透明・白・赤のルアーが、それぞれ他の色よりバイト率が高かった。
この結果を踏まえ、同論文では以下のような考察をしている。
- 背景色とコントラストの高い色のルアーに対してバイト率が高くなる。
- シーバスの成長期に捕食対象となる餌は半透明のベイト(アミ類、稚エビ、仔魚)が多いため、透明ルアーのバイト率が高いと思われる(学習効果)。
コントラストが高いルアーのバイト率が高くなるという点は、冒頭に挙げた水質に応じたカラー選択例に関係してくるように思える。単にルアーカラーのみではなく、背景となる水の色との対照度合いが高い方が当然魚の視覚にも訴えやすくなるだろう。青く澄んだ水ではクリア(透明)が有効という点は正に経験則と共通している。もし実験でチャート(蛍光黃)のルアーを用いていれば、緑や茶といった濁った水に似せた背景色でのバイト率は上がったかも知れない。
「色モノ好き」な魚はいるか?
上記の実験実施メンバーの一人である川村軍蔵教授は釣り好きな方のようで、個人名で釣りに関する本も書いておられる。
この本の中で、川村教授は引き続き色に対する魚の嗜好性についての実験結果を展開している。題材として挙げられているのはクロダイ(チヌ)・メジナ・マアジである。
実験では先ず水槽に入れたクロダイとメジナを対象に、自然色(無着色)および青・緑・黃・赤・黒に染めたオキアミを与え、バイト率の比較を行っている。この実験では背景色が白・灰の二色の水槽と生簀が使用されており、ルアーカラーと背景のコントラストより餌そのものの色の違いに対する反応を重視した内容になっている。
実験結果の要点は以下の通り(同著p.72-74)。クロダイ・メジナについては色に対する明らかな嗜好性が見られると結論づけている。
- 何れの水槽・生簀でも自然色・黃色のバイト率が高い。
- 何れの水槽・生簀でも赤・黒のバイト率は変わらない(嗜好性0〜ややマイナス)
- 何れの水槽・生簀でも青のバイト率は低い(嗜好性マイナス)。
- 水槽・生簀によって緑のバイト率はマチマチ。
同著では同様の実験をマアジでも行っている。結果、マアジは色に対する嗜好性を示さず、自然色のオキアミを好んで捕食したと記されている(同著p.75)。この実験においても、冒頭の経験則の一つである魚の好みによるルアーカラーの使い分けというのも合理的な判断基準になるという確証が高まる。ヒラメやタチウオにおいても、恐らく同様の先天的な色への嗜好性が存在するのではないだろうか。
時間帯はどうか?
経験則として掲げた残りの要素、時間帯については残念ながら上記何れの実験のスコープにも入っていない。個人的な推察だが、恐らく光量による色の目立ち方が関係してくるのではないかと思う。
マヅメ時というのは太陽がまだ登りつつあって、釣座との距離が一番長い位置にある。この場合、波長の長い赤い光の成分が相対的に多くなり、金色に良く反射するようになる。加えてボディの赤い部分とのコントラストがあれば視認性は尚の事高まるだろう。逆に赤〜青までの可視光が多くなる日中は、銀色(ホロ)の方が良く反射して目立つ。光の反射と点滅(フラッシング効果)が魚の関心を呼び、釣果に繋がるのではないだろうか。
こう考えて来ると、いわゆる経験則によるルアーカラーの選択も、それなりの合理性や科学的根拠があると思えてくる。仮に上記のような文献や実験結果が得られなくとも、web界隈でよく推奨されるカラーや、ベテラン釣り師のご教示は一聴の価値があると言える。
ただ、世の中には経験則にハマらないパターンもあるし、ルアーカラーも幾らでもある。経験則に頼らず、自分自身でカラーを選ぶ基準は無いものだろうか?また、ルアーの他の要素(動作・匂い・潜航深度、etc.)に比べ、カラーの重要度はそもそもどれくらいなのか?次回はこの辺りについて考えてみたい。